建物という器をつくって「はいどうぞ」というだけでは不十分だということ。その中を動き回る人間の行動生態との関連において建物をつくるべきではないか。「子どもはこういう動き方をする」あるいは「こういう成長の仕方をする」など、子どもの視点に立った家づくりが必要だと考えている。
最近「子育てに適した住宅」という宣伝文句も見かける。例えば、専用の子ども部屋をつくる。つくらないという議論がある。またリビングを通らないと子ども部屋に行けないという間取りの設定、砂場がある家などもある。でもそのほとんどはハードからのアプローチで、ソフトの視点に欠けている。
人間を中心に考えればわかる。人間は常に成長している。とくに子どもは日々の成長が著しい。でも、いまの子育て住宅には、”子どもは時間とともに成長しうる”という要素が入っているだろうか。
例えば砂場一つを考えても、幼稚園や保育園の頃まではいいが、いまは小学校の低学年では砂遊びをしないだろう。「これが子育て住宅」と銘打って、形の変えようが無い建物をつくってしまうと、子どもの時系列的な成長に、変化に対応していくことはできない。
子育ての仕方は年齢とともに変わり、そして終わりが来る。50年も100年も持つ住宅がずっと「子育て住宅」である必要はない。
住んでいる人間は変わり、子どもは成長するが、建物は成長していかない。だから住宅を建てる方は、ある時点で設定した仕様をいずれ変えることができるというファクターを取り入れなければならないだろう。
◇可変間仕切りといった考えた方が住宅のなかにも取り入れられていますが。
可変間仕切りは一つのアイデアだと捉えている。ただ間仕切りは「取るか付けるか」という二つの選択しかないのだろうか。
個人的には子どもが小さい頃に専用の部屋は必要ないと考えている。でも成長に伴って子どもは自分のテリトリーを欲しくなる。ヨチヨチ歩きをし始めるようになる1歳~1歳半くらいになると、家のなかでも何となく気に入っているコーナーがあったりする。
だから、間仕切りを成長に伴って床から高くしていくというのも一つのアイデアだと思う。
0~1歳では、20センチくらいの高さでいい、子どもは何となく自分のエリアがあり、仕切られているが、お母さんは上からその様子をすぐに見ることができる。
小学生、中学生、高校生となるにつれ壁の高さが上がっていく。子どもは発達に伴って自分の世界をつくっていくものだ。親からはだんだん見にくい部屋になっていって、最終的に間仕切りは天井まで届く。高さも稼動的である間仕切りといったのも一つのアイデアではなかろうか。
◇そのほかで何かご提案はありますか。
育児期は子どもがどんどん自由に歩き回ることができ、何をしてもいい空間をつくることが必要だ。おもちゃも置きっぱなしにする。子どもにこのような空間を与えるのは成長にとってとても重要になる。体も心も、そして知的にも健全に発達していく。
もちろんこうした空間はある程度の広さが必要だ。
子どもは生まれた当初はじっとしている。そのうち寝返りを打つようになる。そして、ハイハイをし、つかまり立ちをし、歩けるようになる。これが一般的な子どもの成長発達の経路となる。
ところが、非常に狭い空間で育児すると、タンスでもテーブルでもすぐに物がある状態が生まれる。
寝返りができるようになった次のステップではハイハイを学ばなければいけないのに、すぐに物があると、いきなりつかまり立ちをしてしまう。発達の順番が狂う。これは医学的にみると、骨や筋肉、生理的な成長の発達プロセスを無視して次の段階に行ってしまうことになる。大きくなると、骨や身体の弱い子どもになる可能性がある。
育児期には大きなタンスなどあまり固定的な物は置かずに、可動式の物を置いた方がいいということ。子どもの成長とともに、家も成長していけばいい。
これまでの住宅づくりが子供にどんな影響を与え、またこれからの住宅づくりにどんな視点が必要とされるのか。住宅と子育ての関係について長らく研究している織田正昭博士のお話をきいた、インタビューの内容を書かれた。創樹社 ハウジング・トリビューンの記事の紹介をしました。
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